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生命保険物語=第13話=

=第13話=  鬼面人事部長、現る!

 気まずい雰囲気から逃げ出すように、わたしは立った。
「済みません。わたし、子供のことがありますので。」
 最近は実家の母が子供の面倒を見てくれる。少々遅くなることは大丈夫だけど、こういう時の口実には子供をだしに使うのが無難。
「わかばさん、遅くまでごめんなさいね。」
 金満部長の声が飛んできた。気まずい雰囲気に変わりはないが、とってつけたように太鼓持支部長が立ち上がると、部屋の入り口まで来て、
「気を付けて帰ってね。明日からも頑張ろうね。」
 と、すかさず手を差し出してきた。腫れ物にさわるような態度だが、これが年輩の女性セールスには”受けが良いのよ”といつか強引さんが教えてくれたことがある。気遣い、なのだろうが、軽く握手したその手は妙にごつごつしていて力強さは感じられなかった。

 実は、わたしを平成生命に誘った強引さんの所属支部はこの太鼓持支部長の品川支部。となると、わたしもその支部の所属。つまり、わたしの契約はイコール太鼓持支部長の品川支部の挙績にも同時に反映される仕組みだったの。わたしが入社のころ、太鼓持支部長の姿はなかったのだけど、体を壊して入院していて、金満部長はその代役をやっていたの。
 だから、太鼓持支部長とは面と向かって話をしたこともないし、親近感は殆どなかった。でも何もしなくとも契約を挙げるセーヌセンターのわたしの存在は支部経営にすれば、棚からぼた餅ということになる。
 
 少し早足でお店を出ようとしたときカウンターのお客が立ち上がり、ぶつかりそうになった。
「済みません。」
 と、軽く会釈をして顔を上げると、ちょうど襟が目の前にあった。そこには、平成生命のさくらの花をかたどった胸章が目に入った。
 思わず、上目遣いに顔を見ると、鬼瓦みたいな大男が顔をくしゃくしゃにして立っていた。もちろん、その大男が平成生命の「人切り鬼瓦人事部長」だと言うことなどその時は知らなかった。
「大丈夫ですか?」

 なぜ、支社長があの場で黙り込んだのか、また職格を抜きにしても金満部長に周囲が気を使うのか、その時のわたしに分かろうはずがなかったけど、その影にこの鬼瓦人事部長がいたことを知ったのは、12月半ばに招待された奥日光の一流ホテルで行われた祝宴の時だったの。

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