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生命保険物語=第6話=

=第6話= こうやって口説かれた! 出来るかも知れない?!

 39階からのパノラマは、もう見ているだけで爽快。そーと深く息を吸う。同じ空気なんだけど生活臭のある我が家の空気とはぜんぜん質が違う。日本を動かす最先端にいるようなそんな錯覚に陥ってしまいそう。

「わかばさん、私いくつに見える?」
 おもむろに金満部長から出た言葉に、戸惑いと実際の年齢をいくつだろうと探しあぐねていると、
「まあ、確かに他の同年齢の女性よりは若く見える自信はあるけど、残念ながら毎年年齢は1歳ずつ増えていくのよね。」
 妙にしんみりした雰囲気に追い打ちを掛けるように、
「実はね、私55歳なの。」
 その55歳が何を意味するのか図りかねていると、
「平成生命では営業部長職は56歳が社内定年で、そこから本当の定年の60歳までは補助的な業務に配置換えさせられるのが暗黙のルールなの。」 
藪から棒にわたしには関係ない話しが切り出され、
「せいぜい私に残された時間は1年しかないの。自慢じゃないけどこれまで多くの営業員さんを育ててきた自負はあるの。でもね、女性がこれだけ進出している生保業界で女性の管理職を育てる努力は後回しにしてきちゃったのよね。」
 そして、昨日の「さくらスクール」の話しにはウソがあるという。
「実は私、離婚しているの。」
 もう、ここまで来ると何がなんだか分からなくなる。
 なぜ?なぜ?なぜ?
 
 たった2回しか会ったことのないわたしに、しかも昨日の今日。一体何を言おうとしているのか皆目見当もつかない。でも、妙に金満部長の話に引きずり込まれていくわたし。他人のプライバシーを覗きみたい野次馬心理もないとは言わないけど、その真剣な眼差しにわたしの心がすーと吸い込まれていくのが分かる。
 このときのことは20年以上経った今でもついこの前のように鮮明に覚えている。わずか2時間ですっかり金満部長の虜になったわたし。果たしてわたし一人を「増員」する目的の虚飾に飾られた演出だったのかあるいは本気で女性の管理職養成構想を考えていたのか、昨年ガンで亡くなった金満部長の口からついぞ聞くことはなかったけど。

 でもその真意がどこにあったとしても、今のわたしがあるのは金満部長との出会いがあったからで、もうここまで来たらどちらでもよいことで、一つ一つの人生の節目を演出されたかどうかを詮索することなど長い人生からすると殆ど無意味なのね。

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