生命保険物語=第11話=
=第11話= 仕方がない、有り難うございます。
日頃はワインが似合う金満部長も小料理屋の座敷ともなると日本酒が似合う。ほのかに赤らんだ頬に潤んだような目つきが妙に色っぽい。
「ここのお店ね、うちの会社の人、結構来るのよ。」
前回の支社会議の後もここで支社長と数人の支部長たちとお酒を飲んだという。でも、立場上たしなむという姿勢を崩せないので、わたしと飲む方が気が休まるとぐいっとお酒のグラスを傾ける。
「で、わかばさんのお話とは?」
「えっ、えー。実は今回の契約第1号の件ですけど。」
「本当に良かったわ。あの契約で会議では体面が保てたし、本当に嬉しかった。」
「そ、その契約、部長さんが自宅まで行って頂いたとか・・・。」
この先が決まらない。余計なことをしたと文句を言いたいのか、でも会議であの3,000万円が役に立ったと言われると素直に喜びたい気もするし・・・。
「あー、あのこと。余計なことをと思われたかも知れないけど、私も必死だったの。それでつい電話してみたら夜ならお話を聞いてもよいと言われ、まあ、わかばさんの代役と言うことで・・・。」
うーん、こういわれると返す言葉もない。
「有り難うございました。こんなにすんなりと契約が決まるとはどうしても信じられなかったんですが。」
「でもね、ここが私の悪いところ。つい、手を出してしまうのよね。人を育てるには時間と忍耐が必要なんだけど、それが出来ない。」
いたずらっぽく、にやりと笑う。
少し酔いが回ったせいか、もう金満部長がわたしに内緒で夜契約者宅を訪問したことなどどうでもよくなった。そもそも、いくら「余計なこと」と言ったところで、では自分一人で契約が取れたかとなるとほとんど絶望的。でも心底「有り難うございます」と言えたかとなると、わたしの自尊心が・・・。
急にお店の中が騒々しくなった。女将さんが小声で金満部長に囁く。
「やっぱり、ここかあ。部長、いいかな。」
どやどやと入ってきたのは浜田品川支社長以下5人の男性支部長に支社の内勤職2人。
どうも、わたしは場違い。部長に目配せして立ち上がろうとすると、
「わかばさん、おめでとう。君のような新人さんがドンドン入社してくれるといいんだが。」
3,000万円効果、とでも言うのかしら。支社長さんまで知っている。わたしは注目されてる。気分は悪くない・・・でもこの後、金満部長が急に怒り出すとは・・・!
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