« 生命保険物語=第9話= | トップページ | 生命保険物語=第11話= »

生命保険物語=第10話=

=第10話=  金満部長との対決!

「金満部長、お話が・・・。」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと今手が離せないの。」
 誰も事務所にいないことを確かめて、書類に目を通している金満部長の席へ近づいたけど、相手にされない。 事務員さんと視線が会うと、口を真横文字に閉めて首を横に振る。
 何か余程都合が悪いらしい。
  
「昼間はごめんなさい。午後からの会議の資料作りで手が離せなかったの。」
 夕方そそくさと帰ってきた金満部長は、そう言って、夕食を一緒にと誘う。
 いつもなら7時頃までは騒々しい事務所もこの日は早々に静かになった。促されるように外へ出ると駅前の小料理屋へ行こうという。金満部長がこういうことは珍しい。研修期間中もわたしを含めた研修生を、ホテルの中の洒落た店に誘ったことはあったけど・・・。

「でっ、何かしら?」 
 駅前ビルの中にある「小料理美弥」は、小料理屋にしてはやや大きめの生け簀に2,30匹の魚が泳いでいた。威勢のいい「らっしゃい!」の声に和服姿の女将さんが「いらっしゃいませ」と丁寧におじきをする。金満部長と小声で話した後奥の小部屋に通された。

「部長さん、・・・」
 ここまで言って、瞬時口ごもってしまった。第1号契約のことを切り出したいのだがどう切り出せば良いかまとまらない。それに、今日の金満部長は何かしら元気がない。こんな時に、どう話をすればよいのか戸惑いで次の言葉が出てこない。それを察したかのように、
「アーァ、今日の会議は参ったわ。理想と現実の違いね。」
 ふうう、と深いため息をついて、わたしの目の前で初めて弱音を金満部長が吐いた。
「大変なんですねえ。部長さんともなると。」
「あーら、ごめんなさい。やはり数字が悪いとね、会議は針のむ・し・ろ」
と、いたずらっぽく、にやっと微笑む。
「実は、」
 と、ほとんど声は同時。二人でその偶然にお互い顔を見合わせ、含み笑い。これで何か吹っ切れた感じ。
「そうねえ。あのときも数字が悪くて。でもわかばさんの3,000万円に救われたわ。」
 セーヌセンターがいかにまだ募集力が弱い集団でも、保険契約のノルマはしっかりと決められているそうで、30名で今月は4億5000万円。そして前回会議の契約高は2億円弱だったところにわたしの3000万円が加算されてどうにか50%をクリアーできて会議での体面が保てたという。
 絡んでいた糸がわたしの頭の中で少し解きほぐされていくような・・・。

|

« 生命保険物語=第9話= | トップページ | 生命保険物語=第11話= »

「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事