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生命保険物語=第7話=

=第7話= こうやって口説かれた! わたしが絶対必要!  

 おもむろに腰を少し浮かせた姿勢で金満部長はわたしの手を取り、強く握りしめてきたの。
「わかばさん、一緒に頑張りましょう。」
 何となく金満部長の目は、潤んでいるようにも見える。

 生命保険の増員は、相手により「口説き方」を上手く使い分けるのは常道。このときのわたしがその対象だなんてそのときは知る由もなかったの。必死で自分のこれからの仕事をやるのに「あなたが必要!」と説得する金満部長にウソはないと信じ切っていたし、そう期待される自分に心地よかった。

 実は、生命保険会社の現場の仕事は大きく2つあるの。一つは営業成績、そしてもう一つがセールスをやる人を集める、いわゆる「増員」。俗に「新人採用」などと保険会社は最近は呼ぶようになっているけど、増員ができない機関長(保険会社によって呼び方は違うけど「支部」とか「事務所」とかの責任者)は、本社からも評価されないの。そればかりか増員ができない機関長は、いろいろなプレッシャーが掛けられるから、まあ必至になるのね。でも、逆に言えば「増員」ができる機関長は評価が高く、出世も早いのが普通。ところが、そう簡単に「増員」ができないから、生命保険会社の機関長は鵜の目鷹の目で「保険会社で働く人」を探すんだけど、これがままならない。

 ところで生命保険の営業というと女性がターゲット。その説得は大きく2つに分けられる。自分で決断できないタイプとできるタイプ。前者は仕事ができる環境作りを丁寧に説明していくだけで、例えば子供の問題なら働ける時間をスケジュール表を作成して教える。ご主人の反対なら同じ環境からスタートして今成功している体験談を聞かせ、スロースタートさせる。のっけからご主人を納得させようなんて時間の無駄。形から入ろうとしても失敗する。女性は、仕事をしながら家事をこなし、夫や子供の”子守”も同時にできる生まれながらの才覚があるのよ。
 もう一つの後者は将来のビジョンで口説く。来年は、3年後は、5年後はという「実現できる可能性」を描かせることで、目の前の障害は自力でクリアーしていくキャリアタイプ。まさしく当時のわたしはこれ。ただ、物事の同時進行は得てして苦手。多くの女性はそうだと思うけど。

 実は、平成生命では「完全固定給の営業職員育成機関」のプロジェクト計画が金満部長を責任者として密かに進行中で、その「第1期生」にわたしを抜擢したい。3年後は「所長」さらに5年後は20名から30名の部下を管理する「支部長」、そして業績次第では金満部長と同じ「営業部長」への道が開かれている・・・。
 「第1期生」と言えば、聞こえは良いがその適材は極めて少ない。入社1年未満の中からも抜擢するが、できたらこれを目標として入社する人材としてわたしに白羽の矢を当てた、と熱く語る金満部長の目線はわたしを睨みつけるように話さないの。でも、その時は雲を掴むような話。

 まさにヘッドハンティングされる側の心境だったけど、でもこのときのわたし本音を言うと「固定給15万円」にもうメロメロだったの。もっともこのとき、金満部長が最初の責任者になるカラクリなんてぜんぜん知らなかった・・・。  

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